アニメ好きなコンサルタントと弁護士によるBLOG

アニメ好きなコンサルタントと弁護士によるブログです。

『無彩限のファントム・ワールド』第11話「ちびっこ晴彦くん」/誰かにとっての“大切な運命の1話”になれる話

1号です。

大分更新の間があいてしまいました。

ももクロのドームツアーは西武ドームに両日参加の予定ですが、今回はアニメのお話です。
というのも、今週オンエアされた『無彩限のファントム・ワールド』第11話がとても良い話だったからぜひ書き留めておきたくなったのです。


無彩限のファントム・ワールド』第11話「ちびっこ晴彦くん」
脚本:吉田玲子/絵コンテ・演出:石原太一

<あらすじ(※公式サイトから引用)>
夜、阿頼耶識社で拾った謎のデバイスを修理していた晴彦。修理道具を探そうとクローゼットの中を漁っていると、小学生の頃に書いた作文が出てくる。こんなことを書いていたんだな……と過去を懐かしんだのち、晴彦は眠りについた。
翌朝、起きたらなんと体が小さくなっていた!?
身体も記憶も小学生になった晴彦。小学生のままホセア学院に登校するが……。

TVアニメ「無彩限のファントム・ワールド」公式サイト


無彩限のファントム・ワールド』は、『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズや『けいおん!』等で有名な京都アニメーション制作のTVアニメーションです。原作は京都アニメーション自身が運営するライトノベルレーベルkaエスマ文庫から出版されている第4回京都アニメーション大賞小説部門奨励賞受賞作です。
内容は、世の中を騒がせる妖怪変化(作中ではファントムと呼ばれています)を退治する部活に所属した主人公とヒロイン達が繰り広げる“学園異能ファンタジー”です。


まあ観てほしいのです。1号は何度も見返してます。
「主人公が不思議な力で身体と記憶が小学1年生に戻ってしまい、ヒロインの1人と母子家庭ごっこをする」と書いてしまうとこれだけの話なのですが、心の奥深くに刺さる良い話になっています。『境界の彼方』の監督でもある石原太一の演出が上手いのでしょうか*1、自然に深く感情移入できるし観終わると晴彦と舞先輩が愛おしくなります。

心の動きを台詞で直接説明してしまう箇所はそれほど多くないのにちょっとした表情や仕草、何気ないやりとりで晴彦や舞先輩の気持ちがスッと観ている自分の中に入ってくるんですよね。それがとても心地良いし言葉で言われるより遥かに感情移入できる。
また、2人が良くあるラブコメ的な関係になるわけではないのもいいですね。恋愛対象ではなく、家族に向ける愛情をメインテーマにしたストーリーなのもライトノベル原作作品としては珍しくて新鮮でした。

アニメには稀に「心の琴線に触れてしまう」話数があり、アニメファンとしての人生を踏み出すわけですが「ちびっこ晴彦くん」はその運命の一話たりえると思いました。
今回はその話を書いておきたいと思います。

【アニメファンは心に「運命の1話」を持っている】

これは1号の私見ですが、Youtubeニコニコ動画をはじめとした動画共有サービスが台頭する以前のアニメファンには「アニメファンになるきっかけの1話」というものがあります。

時系列で表現すると、こんな感じです。

■なんとなくTVでアニメを観ているうちに、運命の1話に出会う
必ずきっかけはTV視聴です。
U局やBS、CS専門チャンネルまで様々な選択肢のある現在のテレビと違い、一昔前にはNHKNHK教育・日テレ・TBS・フジ・テレ朝+地元テレビ局(テレ東)の7択が最大でした。
なんとなく毎週見ていたアニメのうち、今回紹介した「ちびっこ晴彦くん」のような心の琴線に触れるような1話に出会います。そして作品やキャラクターのことを好きになります。

■もう1度観たいという願望が叶わないために苦悶する
現在放送されているTVアニメの大半はビデオパッケージとして販売されます。
しかし以前のアニメはビデオパッケージとして販売されるものは稀でした*2し、そもそもビデオデッキが多くの家庭に普及して自宅で映像パッケージを楽しむことができるようになったのは1980年代後半あたりからなんですよね。
そのため「運命の1話」をもう一度観るためには、再放送を待つか映像のパッケージ化を待つしかありませんでした。

ちなみに、1号の運命の1話は『NG騎士ラムネ&40』第34話「リトルロマンス…君の名は!?」なのですが見直すことができたのは初めて見た5年後くらいの再放送だったと記憶しています。
同作の映像がCMに使われているdアニメストアをはじめ、様々なアニメ配信サービスが揃った現在は本当に天国のような環境ですよね。

■ビデオテープにアニメを録画しまくるようになる
運命の1話を見直せない後悔に苛まれた結果「二度とこんな思いをしたくない」と考えるようになります。
そして運命の1話が来そうなアニメについては事前にビデオデッキに録画してリスクヘッジしよう……と考えた結果、多くのアニメファンは自室内に大量のビデオテープが保管されるようになります。
ちなみにビデオデッキ普及前のアニメファンには、食い入るようにテレビに見入って全てのシーンを暗記しようと努力していた……という人も一定数います。

アニメのタイトルをWebで検索すればすぐ映像を観ることができる現代の中高生アニメファンには想像もできないでしょうが、少し年配のアニメファンに聞いてみれば必ず似たような経験をしていると思います。

【「運命の1話」を持たないアニメファンの誕生】

アニメファンの映像再生メディアを手元に持っておきたいという欲求の源泉は、アニメファンになりたての時期に体験した「運命の1話を観直せなかった」トラウマなんじゃないかと1号は考えています。このトラウマは、ビデオパッケージを購入するモチベーションに繋がり、現在のアニメビジネスモデルの維持に一役買っています。

冒頭にも言及した動画共有サービスの台頭によって、この流れは断絶します。
これはアニメーション業界にとって非常に大きな意味を持っていたと思います。

節目となったのは2006年。ニコニコ動画のサービス開始年ではないでしょうか。

この時期以降に学生だった世代、具体的には1980年代後半生まれのアニメファンは程度の差はあれ「運命の1話を観直せなかった」トラウマを持っていません。なぜなら彼らにとって、アニメはWebで検索すれば無料で観られるものになったからですね。

この世代のアニメファンは、映像パッケージそのものに大した価値を認めていません。そもそもアニメのBlu-ray/DVDはハリウッド映画のそれと較べても法外に高いですし。そのためイベントチケット封入や豪華特典によって購入を煽る傾向が年々加速しているわけです。

ニコニコ動画のサービス開始から10年、ビデオパッケージによる回収モデルは制度疲労の限界に来ています。
いま様々な試みが進んでいるのは、HuluやAmazonプライムをはじめとした会員制動画配信サービスが新たなスポンサーとなるビジネスモデルです。動画配信サービス側は「人気アニメ●●が観られるのは当サービスだけ!」を売り文句にして新規会員を獲得する代わりに、制作費の相応の割合を負担する……というものですね。

今後の経過を見守りたいです。


ただ、上記のアニメファンが生まれる過程で言及した通り、きっかけは地上波TV=誰でも無料で観られて、かつチャンネル選択肢も少ないメディアに多くの子供が触れる機会があったことなんですよね。

そのような意味で、民放で放送された人気アニメの放送権を買い始めたNHKには期待したいですね。

『ラブライブ!』 『進撃の巨人』 そして 『けいおん!』――人気アニメをガンガン放送!! 中の人に聞く、NHKがさらに”はじまった”ワケ


無彩限のファントム・ワールド』もNHKで放送されれば、今回の話をきっかけにアニメを積極的に観る子供が増えるかもしれません。でも『けいおん!』みたいな人気は無いし難しいかな……



では。




↑『無彩限のファントム・ワールド』第11話「ちびっこ晴彦くん」は6巻目に収録


無彩限のファントム・ワールド 2 (KAエスマ文庫)
秦野宗一郎

売り上げランキング: 7,016

*1:この回は作画面でも非常に優れていましたが、私の琴線に触れたキモは演出だったので敢えて取り上げていません。

*2:映像パッケージを販売してアニメの制作費用を回収するビジネスモデルは1990年代後半に本格化したもので、それ以前のアニメは玩具の販売促進や視聴率を稼いでCMスポンサーを募る(サザエさん東芝スポンサー等が有名ですね)ことによって制作費用を回収していました。