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表現の規制は強化されてもおかしくない?

2号です。
前回の記事では性表現の規制について書きましたが、この問題を取り上げた理由の一つは、いつ規制賛成が多数になってもおかしくないという感覚を個人的に持っているからです。

今回の条例改正案とは直接関係ありませんが、2002年10月に、成人向けコミックが刑法175条のわいせつ文書販売容疑で摘発されるという事件がありました(最高裁まで争われ、結果としては罰金刑になっています)。
このとき、私はまだ学生で、プロの法律家をやってる先輩に、この事件のことを聞いてみました。

先輩いわく「現物を読んでないのでなんとも言えないが、性器がはっきり書いてあったんだったらわいせつ文書にあたるんじゃないか」とのこと。
確かに、過去の判例では、小説でもわいせつ文書にあたるとしたものもあるくらいなので、この先輩の感覚は法律家としてはおかしくはありません。

ただ、このとき指摘されていた点として、「このマンガが特別過激な表現をしているわけではない」というのがありました。その上、摘発されたマンガは、成年向けコミックのマークが入っていて市販されているもの。
このマンガが違法と言われてしまったら、他の成年コミックも違法ということになるんじゃないの? という疑問があったので、その点も聞いてみました。

先輩の答えは「同じような表現をしているマンガがあるなら、それも違法になるだろうね」とのこと。
さらに質問「でも、それだと、自主規制で成年向けマークをつけて、マークのついていないマンガとは区別して売っていても、いつどの成年マンガが摘発されるかわからないということにならないですか?」
先輩「そういうことになるね」
私「でも、それだと成年マンガの製作や販売に関わる人を委縮させることになりませんか?」
先輩「実写のエロ本とかAVとか、あと18禁PCゲームとかは、性器部分にボカシやモザイクを入れてるでしょ。マンガはそうしてなかったというのなら、いつ摘発されてもおかしくないものを売っているということになるよね」

という感じで、先輩の感覚としては、AVをはじめとするモザイク処理などの自主規制が、イコール「法的に許される最低ライン」になっているのでした。
この先輩に限らず、多くの人は「規制されても仕方のない性表現がある」「仕方のない分に限定した規制をすることは可能である」「多少不明確な部分が残るとしても、警察が摘発するのはグレーの部分ではなく真っ黒な部分からだから、委縮効果もそうそう起きない」という感覚を持っているんじゃないかと思うんです。

今回の条例改正案は反対意見が多数だったようですが、それは積極的な反対派以外の人が、あまりこの問題に関心を示さなかったために過ぎない気がします。
今回無関心だった層の人々が規制賛成に傾くような事件(凶悪な性犯罪とか)が発生すれば、あっさり改正が通ってしまうかもしれません。

そうならないように、規制反対の論拠も、もっと検討して練り上げていくことが大事なんじゃないかと思っています。


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