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メヘル・シアター・グループ『1月8日、君はどこにいたのか?』/社会派演劇として成立しつつも「おもしろい」ことの衝撃。

1号です。
2012年10月27日から11月25日まで、東京で「フェスティバルトーキョー2012」という演劇祭が開催されています。

その中のひとつ『光のない。』を観てきたのでレビューを書こうと思い立ったものの、その前に先々週観たままレビューできずじまいだった『1月8日、君はどこにいたのか?』について書いておく必要を感じたので先にこちらを。

メヘル・シアター・グループ『1月8日、君はどこにいたのか?』

会場・期間:東京芸術劇場 シアターイースト(2012年11月2日〜11月4日)
作・演出:アミール・レザ・コヘスタニ [イラン]



●あらすじ
イランの最高学府・テヘラン大学に通う4人の女子大生たち。彼女たちは、そのうちの1人の恋人で兵役中の男から銃を盗む計画を実行する。ところが翌日、計画通り順番に受け渡しが行われ各人の“目的”に使われるはずだった銃は、予定外の運命をたどることになる……


『1月8日、君はどこにいたのか?』概要(フェスティバルトーキョー2012公式サイト内)


1号は、この公演を観て非常に感銘を受けた点が2つあります。

おもしろい!

ひとつは、この公演が「おもしろかった」点です。

「演劇なんだから当たり前だろう」と思う向きもいらっしゃるでしょうが、これには理由があります。

この演劇は、いわゆる<社会派演劇>です。
公式サイトの概要にも、下記のように書かれています。

若干22歳にしてイラン国内の権威ある賞を受賞(ファジル演劇祭)、近年はヨーロッパを中心に高い評価を得る劇作・演出家アミール・レザ・コヘスタニ。厳しい検閲をくぐり抜け、現代社会のタブーに斬り込む彼が、2009年6月のイラン大統領選挙とその不正疑惑への激しい抗議活動を下敷きにした意欲作を手に来日する。
(以下、割愛)

また、動画を観れば分かるとおり芝居の大半が「携帯電話による会話」で進みます。いわゆる<前衛的表現>によって構成された芝居です。

<社会派>や<前衛>という冠が付くと“面白くなくてもいい”と娯楽性を切り捨てても許されてしまう風潮がある中、「現在、世界で最も注目される非西洋圏劇作家・演出家の一人」*1であるアミール・レザ・コヘスタニは娯楽としても十分に面白いものを妥協せずに作りおおせました。


社会性や芸術性は、娯楽性と両立しうる
そして
「社会派」や「前衛」を謳う作品が「つまらない」のは、クリエイターの怠慢でしかない
と高らかに宣言してくれたように1号は感じました。彼は、入場料を払った客に対して誠実さを示してくれたのです。


本作は、6人の登場人物が、1対1が基本の携帯電話による虚実が入り混じった会話を、色々な組み合わせで行う様子を通じて、各自の置かれた立場や互いの力関係、秘密にしていた銃の使い道などが徐々に明らかになってゆくサスペンス仕立てになっており、公演中ずっと目が離せませんでした。
イラン語を日本語字幕で上演しているにもかかわらず、眠くなる暇など無いくらい引き付けられました。


一方で、登場人物の女子大生たちは、最高学府のインテリらしからぬ愚かさや身勝手さ・性に対する奔放さを見せつけ、極めて人間らしい行動を見せてくれます。日本の観客である1号にも、グルカで顔を隠した貞淑な中東女性のイメージが、いかに紋切り型のイメージでしかなく社会的な抑圧の結果であるかを自然かつ納得感を持って気付けるような構成になっていました。

また、登場人物たちは盗んだ銃を使って「現状の自分ではどうにもできないもの」を突破しようとしているわけですが、その「現状の自分ではどうにもできないもの」の一つ一つがイラン社会が内包する闇の映し鏡になっていました。

このような<社会派>的なメッセージを伝えつつ、それでも娯楽として妥協をしない公演に1号は驚きを隠せなかったわけです。


パンフがよくできている!

そして、もうひとつ感銘を受けたのが公演パンフレットです。
「フェスティバルトーキョー2012」では、とてもしっかりした8ページの冊子を作成しています*2


ここには演出家のアミール・レザ・コヘスタニによる演出ノートの他、舞台の背景知識となる「舞台を読み解く7つのキーワード、テヘラン事情」というテキストが用意されており、イラン人なら当たり前に知っている情報を補ってくれていました。これらを把握した上で本編を観ることができたおかげで、1号も本作の醍醐味を余すところなく楽しむことができました。


この公演の面白さや奥深さを適切に観客が体験してもらおうという主催者側の素晴らしい配慮であったと思います。(途中、日本語字幕がちょいちょいセリフとずれていたのはご愛嬌でしたが)


*1:公演パンフレット4ページより引用

*2:『1月8日、君はどこにいたのか?』では、これに加えてカラーの登場人物紹介も1枚挟み込まれていました