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地点『光のない。』/おもしろければOKか?

1号です。

前回のエントリに続いて「フェスティバルトーキョー2012」主催プログラム『光のない。』のレビューです。

ノーベル賞作家の3.11への応答。「声を出す/聞く」を問い直す実験空間
F/T12 イェリネク三作連続上演
地点『光のない。』

会場・期間:/東京芸術劇場 プレイハウス(2012年11月16日〜11月18日)
作:エルフリーデ・イェリネク
演出:三浦基(地点)/音楽監督三輪眞弘/出演:安部聡子、石田大、窪田史恵、河野早紀、小林洋平


『光のない。』概要(フェスティバルトーキョー2012公式サイト内)


原作はオーストリアノーベル賞作家エルフリーデ・イェリネク。彼女が東日本大震災と、それに伴う原発事故について書き下ろした戯曲が『光のない。』だそうです。
フェスティバルトーキョー2012ではイェリネクの作品を三作連続上演することになっており、本作もそのうちの一つ。


ここでも公演パンフレットが良い仕事をしてくれていました。少し長いですが演出家の三浦基の演出ノート冒頭部分を引用します。

身体性について気がついたこと

身体とは環境における体のことであり、環境とは物語といっていい。ナイフを突きつけられれば、体は凍る。ナイフを取り出すには、事件が必要である。事件を説明するのに物語が生まれる。だから物語が無ければ体は凍らない。
凍らない体の蔓延は、舞台において許されないから、劇は常に事件を必要とした。事件をどう運ぶかということに熱中した。私は今、ギリシャ悲劇まで遡っている。そこではナイフなんてせこい道具ではなく、戦争が環境となる。しかし、ギリシャ悲劇が劇の原初だとして、では今、ギリシャ悲劇をそのままやったところで、我々の身体にはそぐわないだろう。神と戦争に頼るのはごめんだ。そこで身体は困るのである。
物語を捨てる。それは身体を捨てることである。ナイフは取り出さない。いや、取り出せない。これがポストドラマ演劇と呼ばれる現代演劇の闇である。物語を期待している観客は、悪いことは言わない、今すぐ席を立つか、あきらめて寝てもらうしかない。私は本気で言っている。なぜならば、それが歴史だからだ。私のせいじゃない。いや、私のせいかもしれない。せっかく物語があってもそれをわざわざ壊すのだから。しかし、今回はその心配はない。イェリネクである。ナイフもピストルも登場しない。イェリネク作品が難解なのは、物語がわからないからである。この作家は物語を捨てている。では何を書いているのか。


「物語を壊す」というのはイメージしづらいかもしれませんので、同じ劇団の動画を貼っておきます。

本作も終始こんな感じです。
文脈などの物語だけでなく、イントネーションや文節までもを解体された膨大なテキストを記憶して演じおおせた主役格の安部聡子は単純にすごいと思いました。


ちなみに前述の演出ノートの最後は、こう締めくくられていました。

最後に、どうかこの劇を席を立たずに、そして寝ることもなくお楽しみいただければやっぱり幸いです。

しかし残念なことに、公演中1号の隣りに座っていた大学生と思しき女の子は寝息を立てていました。(一瞬、肩を貸す形になってうれしかった)



演出の三浦基にとっての不幸は、彼の芸術を「数百人の観客から入場料を受け取って披露する」というショービジネス型の流通を通して発表しなければいけない時代に生まれてしまったことなのかもしれません。


このエントリ<見世物で対価を得ることの意味をゴキブリコンビナートが教えてくれた>にも書きましたが、一般前売4500円のチケットを売る以上は面白くないとまずいだろうと、エンタメ業界周辺を漂う1号は思ってしまうんですよね。


アーティスト・インタビュー:三浦 基(地点) | Performing Arts Network Japan


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(追記)
公演の感想がTogetterにまとめられてました。
F/T12イェリネク三作連続上演『光のない。』演出:三浦 基(地点) 音楽監督:三輪眞弘 - Togetter

舞台設備を誉めている方も多いですね。確かに美しかったです。でも舞台美術は『トカトントン』の方が良かったと個人的には思っています。

理屈や解釈ではなく「感じる」タイプの公演であるのはなんとなく分かるし実際にそういう方もいらっしゃったのでしょうが、こういう言い方は「分かる人にはわかるんだ(分からないお前は才能が無いんだ)」みたいな同調圧力を生む危険性をはらんでいます。
この事については別のエントリ<シルヴィ・ギエムが「本当に一流なら素人が見ても凄いとわかる」と教えてくれた。>で書いてあるので、よければ読んでみてほしいです。