シルヴィ・ギエム『エオンナガタ』/きみは劇場で“夢の世界を観たような感覚”に陥ったことがあるか?
1号です。
<HOPE JAPAN TOUR>で来日中のシルヴィ・ギエムが『エオンナガタ』を日本初演するというので観てきました。
良いだろうとは思っていたものの、その想像を超えて素晴らしかった。
あなたは劇場で“夢の世界を観たような感覚”に陥ったことがありますか?
本公演はまさにそんな公演でした。
『エオンナガタ』
出演:シルヴィ・ギエム、ロベール・ルパージュ、ラッセル・マリファント
照明デザイン:マイケル・ハルズ
衣装デザイン:アレキサンダー・マックイーン
サウンド/デザイン:ジャン=セバスティアン・コテ
タイトルの『エオンナガタ』は、
【エオンの騎士】+【女形】
の造語だそうです。いずれも性別を飛び越えさまよう存在ですね。
エオンの騎士ことシュヴァリエ・デオンはフランス革命前後に実在した人物です。彼(女)は生涯の前半は男性として、後半を女性として生きました。
『ヴェルサイユのばら』のオスカルや、冲方丁*1のメディアミックス作品『シュヴァリエ 〜Le Chevalier D'Éon〜』のモデルですね。
このシュヴァリエ・デオンの人生を、体格も出自も性別も異なる3人の出演者が演じてゆきます。
舞台の中では男と女の境界だけでなく、国と国の境界、クラシックバレエとコンテンポラリーダンスの境界、演劇とダンスの境界、そして最終的に観客を現実と夢の狭間へ連れていってくれます。
■ココがすごかった1→照明デザイン!
照明デザインのマイケル・ハルズ。
彼が設計した光(白)と影(黒)に彩られた舞台づくりは本当に特筆に値します。
先日レビューした『アンダーグラウンド』のような優れた撮影監督と美術監督を擁して撮影された“絵画的な映画”が持つ美しさを、生の舞台上に現出させていました。
特に序盤で3人揃って踊る殺陣のようなシークエンス、そして最後の鏡を使ったシークエンスが衝撃的に美しかった。
鏡のシークエンスは鏡の使い方も、あの浮遊感を出した演出も含めて素晴らしかった。なにげなく出てきた「鏡面」がやがて「境界」へ変質するあの瞬間、思わず尿意も引っ込みました。あのシーンだけでも入場料分の価値が十分あります。
あと衣装デザインも美しかった上に演出意図をうまく汲み取っていてすごいなあ、と思って調べたら超大物でした。。。
■ココがすごかった2→わかりやすさ!
本公演では、冒頭にセリフ(フランス語と英語ですが舞台脇にある電光掲示で日本語字幕が出ます)でシュヴァリエ・デオンの一生を語ってしまいます。本編内でもちょいちょいセリフが出てきます。
これにより、クラシックバレエにありがちな「筋を予習してないと何が起きてるか分からねー」状態にならずに済んでいます。
また、話の筋とテーマが冒頭に提示されることでコンテンポラリーダンスにありがちな「確かに踊りはキレイだけど意味はサッパリわからん」状態にもならずに済んでいます。
そもそもシュヴァリエ・デオンそのものが魅力的なストーリーであり設定なので、とても入り込みやすくダンス公演に慣れてない人が初めて観ても十分に楽しめるわかりやすさと芸術的な美しさを両立させています。
■ココがすごかった3→天才ダンサーのダンス!
出演者の1人、シルヴィ・ギエムは御年46歳にして未だに世界トップレベルに君臨する奇跡の天才ダンサーです。
1号に「人は踊りでここまで人の心を動かすことができるのだ」と教えてくれたのも彼女のダンスでした。
彼女自身が「ダンスのあるスペクタクル」と呼ぶ本公演も、凡庸なダンサーが踊っていたなら観客を魅了するものにはならなかったでしょう。
本作の中盤にある彼女のソロシークエンスは、前に観た時と変わらず息をのむ美しさを備えていました。
本当は「シルヴィ・ギエムまじ最高!」みたいな記事になる予定だったのですが、公演そのものが素晴らしすぎたのでこんな感じになりました。
ギエムについては稿を改めてまた書きます。
(追記)書きました。【シルヴィ・ギエムが「本当に一流なら素人が見ても凄いとわかる」と教えてくれた。】