シルヴィ・ギエムが「本当に一流なら素人が見ても凄いとわかる」と教えてくれた。
1号です。
前回の記事で続きで、シルヴィ・ギエムという天才ダンサーの公演で1号が学んだことを書きます。
先に要約すると、
目利きを自称する人の「▲▲*1で満足してるようなシロウトには、◆◆*2の良さがわからねーんだよ」という言葉を真に受けてはいけない。
ということです。
この「▲▲」と「◆◆」の間には、確かに“差”が存在します。
かつて1号も“違いの分かる男”ぶりたくて色々勉強したりしました。
でも、実際には。
その“見る目のある人にしか分からない差”って、彼らが言うほど重要な差では無かったんですよね。
シルヴィ・ギエムのダンスは誰が観ても、問答無用で、圧倒的に凄かったのです。
偉い批評家や評論家の先生に「これはスゴイものなんですよ」と解説していただく必要性が全くなかったのです。
ちょっとたとえ話をしてみます。
コンテンツを心を震わせる電波を飛ばす“電波塔”、視聴者を“アンテナ”だと思ってみてください。
訓練された目利きの“アンテナ”は、より微弱な電波でも受信して心を震わせることができます。
でも10年後、100年後に語り継がれる本当に超一流のコンテンツは敏感な“アンテナ”なんか必要としないくらい、超強力な電波を出して“アンテナ”の精度に関係なく多くの人の心を震わせることができるものなのです。
シルヴィ・ギエムの出す段違いの電波の前では、▲▲の出す電波と◆◆の出す電波の差を語ることにさしたる意味はありません。
この気付きは、現在1号がコンテンツ関連のお仕事をする際にも役に立っています。
■シルヴィ・ギエムの何がそんなに凄いのか
『グラップラー刃牙』という格闘マンガに極真空手の創始者・大山倍達をモデルにした愚地独歩というキャラクターが登場します。
彼はコミックス第6巻で「見えない攻撃」を披露します。
別に拳や足が本当に消えるわけではありません。
あまりに動きが自然で知覚できないため眼前に拳が迫っても動けないのです。
攻撃の種類を予告されても回避行動を取れずに驚く主人公に対して、愚地独歩はこう話します。
わたしはね
今 見せた基本技を五十年……
毎日千本以上続けているんだよ……呆れただろ……
それができる馬鹿なら誰だって今のような真似ができる
このトンデモなエピソードを地で行くのがシルヴィ・ギエムのダンスです。
彼女の動きはあまりに自然で滑らかなため、じっと見入っているはずなのに動いているのか止まっているのかすら分からなくなる時があるのです。
天賦の才能、鍛え抜かれた肉体、徹底的な鍛錬が揃ってはじめて現出する奇跡のパフォーマンスだと思います。
彼女のダンスについては、ブログ検索をすれば色々な方が言葉を尽くしてあらゆる角度から感動を描写しようと試みた成果を読むことができます。
その中で1つだけ紹介するとしたら、1号はこの記事を奨めます。感動の熱量が文字に残っている感じが良いです。
2月7日。この世に天才はいる。シルヴィ・ギエム『ボレロ』。|三谷晶子の日々軽率。
ビッグコミックスピリッツで現在連載再開中の『昴』というバレエ漫画に、バレエで人の聴覚や視覚も支配できるダンサーが出てくるんですが、これ、うそじゃないです。マジです。
ギエムはそれが出来るダンサーなんですよ。
一昨年の公演で上演された『TWO』という演目。
ギエムが手を前に出し押す仕草をしただけで、一階席の後ろから二番目にいた私は、自分の胸を押されたような気がしました。
布団を押し付けられているような圧迫感で息が出来ない。苦しい。でも、目を離すことが出来ないんです。
この感覚は1号も感じたことがあります。
ギエムが踊りはじめると、客席が息を呑むのが分かります。
1号が初めてギエムの『ボレロ』を間近で観た時にも「我々は今なんて凄いものを観せられているんだ」と会場中が感じている空気を体感しました。
バレエって凡庸なダンサーが踊っている時には咳払いが聞こえたりするものなのですが、これもほとんど無くなります。
映像アーカイプでは伝わりきらない“場の空気”を感じるためにも、1号は生で観ることを強くお勧めします。