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『監督失格』…紛れもないスタジオカラー作品だった!

1号です。
サブカル界隈で話題になっていた『監督失格』を観てきました。


監督失格
出演:林由美香、小栗冨美代(由美香ママ)、カンパニー松尾/監督:平野勝之/プロデューサー:庵野秀明/音楽:矢野顕子/配給:東宝映像事業部/製作:カラー・コイノボリピクチャーズ
公式サイト

概略は公式サイトとかサイゾーの記事を読めば事足りるのですが、1990年代に活躍して2005年に急逝したAV女優・林由美香ドキュメンタリー映画です。


映像上の見どころは、音信不通になった林由美香の自宅マンションへ監督と彼女の母親が踏み込み倒れた彼女を発見するシーンです*1

カメラは玄関口の床へ置かれ、部屋の奥を定点映像で撮り続けます。林由美香が倒れている部屋にカメラは入り込みませんが、恐る恐る奥の部屋へ入っていく監督、まとわり付いてくる彼女の飼い犬、混乱して110番の電話すらうまくできない様子、慟哭する母親、駆けつけた救急隊員。そのすべてが淡々と映っています。

見て気持ちいいものではないです。身近に急逝した人がいる場合は、なおさら嫌な気分になります。

でも、あの暗闇の向こうに冷たくなり異臭を放つ「身体であったもの」があるという生々しい存在感と、愛するものの死を目の当たりにした人間の異様な雰囲気は、フィクションには到達できない特別のものでありました。




注目すべきはプロデューサー。
新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明です。

庵野秀明が「無類のAV好き」で、AV業界の飲み会に出没している事は1号も以前聞いたことがありました。林由美香の活躍した時期は、ちょうど庵野秀明が一番AVを観ていた時期とも重なるのでしょう(ちなみに1号は世代がずれていて林由美香のことはほとんど知りませんでした)。

実際、スクリーンに映し出される「飲み会で撮った写真」や「告別式の写真」で庵野秀明がちょいちょいカメオ出演(?)しています。

林由美香の死後、監督の平野勝之は元恋人で映像作家として唯一無二の題材であった*2彼女を喪い何も撮れなくなっていました。

その彼が映像の封印解除を承諾してくれた彼女の母親と話をするシーンで「(映画を作るための)お金を出してくれる人もいるし……」と話している“お金を出してくれる人”とは庵野秀明なのでしょう。

エヴァで稼いだ金で何やってるんだ!(←ちょっとうらやましい)


しかし、ラストシーンは紛れもない庵野秀明プロデュースのスタジオカラー作品と呼べるものでした。
いまや40代のオジサンである平野勝之が、すべてをさらけ出し心の奥底にある“本当の気持ち”に向き合い、深夜の街を自転車で爆走しつつ絶叫して映画は終わります。

エンディングで流れるのは矢野顕子の歌声。
1号が予備校に通っていた頃、ある講師が「坂本龍一は早く引退して、本物の天才である嫁(矢野顕子)を支えるべき」と言っていたのを思い出しました。当時の1号には矢野顕子は変な歌い方をする人くらいの認識しかなく彼の言い分に違和感を感じたものでしたが、この日初めてその意味を理解した思いがしました。


そして、庵野秀明はラッシュでこのラストシーンを観てビンビンになったに違いありません

庵野秀明プロデュース、スタジオカラー製作の名に値する作品であったと思います。


本作は興行のための映画というより「僕らが大好きだった林由美香」を追悼するため作った仲間向けのプライベートフィルムという性格が強い作品でした。
1号のように林由美香に特別な思い入れの無い者と、実際に映画館に来ていた40代前後の「林由美香世代」の人たちとでは、また違った感覚があるのかもしれません。

どこかTBSラジオの看板アナウンサー・外山恵理似の容貌に、甘えん坊だけれども気風のよい性格の林由美香は不思議な魅力を感じさせる女性でした。

彼女の冥福を祈りつつ、野方ホープへつけ麺を食べに行こう*3と心に決めた1号でした。



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*1:AVの撮影を自分の自宅や女優の自宅でハンディカムを回しながら行うスタイルだったこともあり、カメラが回っていたのですが、それが彼女の母親に疑われる結果となり映像は長らく封印されていたそうです。

*2:実際、林由美香と新宿から日本最北端まで自転車で不倫旅行をするドキュメンタリー映画『由美香』を発表後、彼女と別れて以降の平野勝之は、彼女以上の被写体、『由美香』以上の映像を見出せず大スランプの期間を過ごしたことが映画の中でも語られています。

*3:由美香ママこと小栗冨美代は、吉祥寺や原宿にも支店がある有名ラーメン店「野方ホープ」の創業者だそうです。