『原子力戦争 Lost Love』(1978年,日本)/おそらく3.11前後で見え方の変わる作品
1号です。
福島第一原発を舞台に“原子力ムラ”の闇を描いた『原子力戦争 Lost Love』が映画館で観られるというので行って来ました。
『原子力戦争 Lost Love』
監督:黒木和雄/原作:田原総一郎『原子力戦争』/脚本:鴨井達比古/撮影:根岸栄/音楽:松村禎三/美術:丸山裕司
出演:原田芳雄、山口小夜子、風吹ジュン ほか<あらすじ(原子力戦争 Lost Love [DVD] 内容紹介より)>
東北のある港町の海岸に男女の心中死体が発見される。そんな中、田舎に法事のために帰ったまま戻らない女を連れ戻しに青年やくざが東京からやってきた。そして女の行方を捜し求めるうちに海岸の心中死体は自分の女だったことが判明、死ぬはずのない女の死因を追求する青年やくざだったが、その前には大きなどす黒い罠が仕組まれていた・・・。
(以下、多少のネタバレがあります)
原作は田原総一郎のドキュメント・ノベルです。
ただし『竜馬暗殺』の監督と主演俳優ありきの企画だったからか、シナリオ的には換骨奪胎が行われているようです。
1号の独断と偏見による見どころは下記のとおり。
■爆発前の福島第一原発
震災以降毎日のようにテレビで映されている福島第一原発は建屋が吹き飛び骨組みが無残に晒された状態です。
この福島第一原発が、その綺麗な白い立方体の姿で立ち並ぶ様子が映っています。
本作はジャンルで分ければサスペンスであり「心中事件の背後には原発の事故隠蔽に関わる陰謀が絡んでいる」という構成になっています。
“不気味なチカラを備えたもの”として描かれる福島第一原発の姿は、映画公開時に観た人と、3.11以後を生きる我々とでは違った見え方がするものと思います。
■無断撮影(?)と思しき原発入口でロケシーン
恐らくこの映画最大の見所は、一箇所だけ挿入される“芝居じゃない”ドキュメント映像のシーンです。
主人公の原田芳雄とカメラマンが原発(本物)の立入禁止区域にやって来て、警備員(本物)に「不法侵入ですよ!」「撮影はやめてください!」と制止される……というものです。
「電力会社が街ぐるみで何かを隠しているらしい」という展開の中で挿入されていることもあいまって、秘密主義的な感じを強める効果がありました。謙虚な言葉遣いと裏腹に大変横柄な態度の警備員に1号は既視感を覚えました。
公開当時に観ていたとしたら「これはやりすぎだろう」と思っていたかもしれません。しかし福島第一原発の結末を知る我々にとって、このシーンもまた違った見え方がするものと思います。
■原辰則 vs 落合博光
本作は真面目な題材を扱っている割にツッコミどころも多いです。
漁協長役の石山雄大が原辰則に似てるんです。
そして新聞記者役の佐藤慶が落合博光に似てるんです。
この2人が対峙するシーンがあるのですけど、似ている事に気付いてしまって以降はものまねコントにしか見えなくなり思わず笑ってしまいました。
山口小夜子は鳩山由紀夫元首相の夫人にして元タカラジェンヌの鳩山幸と同じ髪型*1で福島の港町を歩くシーンでは完全に浮いているし、そもそも主人公の原田芳雄からして白いスーツの上下に胸のはだけた白シャツ姿という東京でも浮きそうないでたちで登場します。
あと、お目当てのひとつに若い頃の吹雪ジュンが観たい*2というのがありました。確かに綺麗だったのですが先に中年姿の吹雪ジュンを知ってしまった1号は、デビュー当時から彼女を知る人と同じレベルのときめきを感じることはできませんでした。
■“予言的”なラストシーン
主人公の原田芳雄は心中で死んだとされる「自分の女」を殺した真犯人を探すべく、行動します。
その過程で「電力会社」「地元」「学者」「官僚」「マスコミ」などが構成する原子力ムラと現在批判されている利益共同体の存在を浮かび上がらせています。その姿は、3.11以降に大きくクローズアップされ多くの人が知るに至った事実と極めて近いものでした。
この映画の公開は1978年。実に30年以上前であるという事実にあらためて驚きを隠せません。
映画のラストで原田芳雄は追い続けた“犯人”と対峙します。
この“犯人”の象徴的な描き方が非常に良かった。そして恐ろしかった。
「この映画、どうやってオチをつけるのだろう?」と思っていた1号の予想を完全に凌駕した納得のラストシーンは必見です。