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性表現は、なぜ規制できるのか?(2)

2号です。前回の続きで、法律や条令で規制を行う根拠のバリエーションを解説します。


●パターナリスティック規制

他人に迷惑をかけるからではなくて、本人を保護するという目的での規制を、パターナリスティック規制と言ったりしますが、これは青少年(実在のほう)保護関係の法令ではよく根拠に挙げられます。
 
性表現に限らず、情報が人格形成に影響を与えるという点についてはほとんどの人が認めるところだと思いますので、「子供(青少年)には見せない」という形でのゾーニング規制の根拠として挙げられます。アルコールやタバコの規制と同じ、ということです。これはなかなか否定しにくいと思います。
 


●第三者の権利

そのほかに、「見たくない人の見ない自由」を守る、という理由も挙げられることがあります。
要するに、見たくない人にも目に入ってしまうような形態で販売・提供してはいけないということです。

また、「表現の対象となっている人物の権利」が規制根拠として挙げられることがあり、児童ポルノ規制はまさにこの発想です。ただ、「非実在青少年」の表現の場合は、わざわざ非実在と言ってるくらいですから、この根拠はあてはまりません。
 

社会環境の確保
 
あと、「社会の健全な環境を守る」、という目的が挙げられることがあります。モラル自体を保護するというのとは違って、住宅の近くに工場を建てないとか、学校の近くに風俗店を作らないとか、社会が全体として調和を保って発展していくために、棲み分けをするといった意味になります。



●「性表現の規制」、今後の議論は? 

これらの規制根拠をまとめると、性表現の「全面禁止」を正当化する理由というのは、なかなか見つけにくいということになります。刑法175条(わいせつの罪)についても、違憲(少なくとも、全面的に有効ではない)だという説が有力になってきているらしいです。
その一方で、いわゆるゾーニング(表現の方法や場所を規制する)については、これを正当化できそうな理由がいくつかあり、自主規制では当たり前のようになっています(18禁の書籍だけビニールで閉じられていて立ち読みできないようになっていたり、レンタルビデオ店ではAVコーナーが区画として分けられていたりします)。

今回の問題では、条文の書き方がヘタだったために、全面規制と変わらないじゃないかという批判は的を射ていたと思います。
しかし今後、ゾーニングの方法をもっと緻密にした改正案ができてきたときには、「非実在青少年」の表現もゾーニング規制の対象になる可能性は、十分考えておかないといけないと思います。ゾーニングという発想自体は、さっき例を挙げたようにすでに当たり前になってますので、これを自主規制でなく公的規制にする、という法律が成立してもおかしくはない状況だということです。
そして、ゾーニング規制が認められるとしたら、「技術的にゾーニングが難しいから全面規制する」という発想まではあと一歩です。本来は「見てもいい」人たちも、青少年の健全な育成のためには我慢しなさい、というわけです。
また、児童ポルノ禁止法が成立したこともあり、「18歳未満」の性的描写自体が道徳的に悪いことだという価値観は、かなり広まっているのではないかと思います。
 
つまり、規制肯定派の人たちは、「非実在青少年」の表現を規制することが正当化される土壌が整ってきていると考えており、しかもその現状認識がそれほど的外れではないからこそ、こういう改正案をつくったということだろうと思います。今回否決されて、それで安心というわけにはいかなさそうです。

これから、少しづつになるとは思いますが、規制肯定派への反論はどう組み立てていけばいいのかを考えていきたいと思います。