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見世物で対価を得ることの意味をゴキブリコンビナートが教えてくれた

1号です。

昨日、仕事でアイドルの卵が出演する芝居を観てきました。(←可愛かった)

その芝居を観て「少し長くなってしまったので、書こうと思っていた「ゴキブリコンビナートが“見世物に対してお金をもらうことの意義”について教えてくれた」は日を改めて書くことにします。」と予告した内容を書く気になったのでレビューの代わりにまとめます。

<参考:ゴキブリコンビナート 第27回公演『おから大好き』/入口で「身の危険を感じたらちゃんと逃げて」と警告される観劇体験。

先のエントリでも述べたとおり、1号はゴキブリコンビナートの公演とその主催であるDr.エクアドルをリスペクトしています。

それは、彼が観客からお金を貰ったことに対してこの上なく真摯かつ誠実だからです。


経済学に「代替財」という言葉があります。
ある商品やサービスの代わりとして消費されうる商品やサービスを指す言葉です。*1

ゴキブリコンビナートを含む劇場公演の有力な代替財の1つが「映画」です。

特にハリウッドの大作映画などは、超一流の脚本家が練りに練ったシナリオを、めちゃくちゃ金をかけたセットを舞台に、世界有数の美男美女が活躍する濃密で高質な娯楽体験を提供してくれますよね。

それでお値段なんと1,000円〜1,800円なわけです。

そんな中、ゴキブリコンビナートの公演を見る対価として3,000円台の入場料を取ってしまうという事実にDr.エクアドルは真摯に対峙しています。

「どうしたら、値段分の便益を顧客へ提供できるだろう?」

これを突き詰めて突き詰めて突き詰めて、思い余った(!)結果がゴキブリコンビナートの「凄い物を観てしまった(でも内容はよく覚えてない)」という後味を作っているのだと思います。*2


もともと日本語には「河原者」とか「河原乞食」といった言葉があります。
芸能従事者に対する差別用語であり、彼らは“士農工商”のさらに下に位置づけられていたわけです。

<参考:河原者 - Wikipedia

理由は簡単。彼らが「社会の役に立ってない(と言われても仕方がない)」からです。

社会や経済が成熟していない時代、今でいう「サービス業」は蔑みの対象でした*3

士農工商”の序列にしても、
【政治≒国防や警察の従事者】>【農業≒食料の供給者】>【工業≒社会に役立つ“ものづくり”従事者】>【商業≒自分で消費財を生み出さない癖に対価を得ている人々*4
という考え方から成り立っています。

これは1号の想像ではありますが、
芸能従事者が商人よりもさらに下へ位置づけられている理由は、商人が提供する「遠方で生産された品を商人が運んできてくれたから購入できる」という便益が(商人の取り分である利鞘が妥当かを別にすれば)確かに存在するのに対して、芸能従事者が提供する「おもしろい」という便益は人によっては発生しない(=つまらないと感じる)場合があるからではないでしょうか。

芸能従事者へ支払われた貨幣は、
士にとっては“命を張って国を守る対価”であり、
農にとっては“生産した農作物の対価”であり、
工にとっては“役に立つ道具を作った対価”です。

そんな貨幣を支払った結果、何らの便益を得られなかったとしたら気持ち的にムカつきますよね*5



だからこそ、芸能従事者は「通常の生活では見られないくらい美しいもの」や「まっとうな生活を送る人々ならば絶対にやらない事(←ゴキブリコンビナートの芸風はこちらの系譜)」を見せることで対価の支払い手たちを納得させねばならなかったのです。



頭の中に漠然とあった1号のこんな気持ちを言語化できたきっかけは、下記リンクの冒頭部分の文章でした。

参照元Dr.エクアドルのアンケートにお答えします。「粘膜ひくひくゲルディスコVer.2」

ある劇団のホームページに書かれた「雰囲気悪くなるからウチの公演中に寝るな。楽しませてもらってる身分をわきまえろ」(←1号意訳)という観客批判に対してDr.エクアドル「この発言には、サービス精神のかけらもない。」から始まる辛らつな言葉で噛み付いています。

ページが見づらいとか言わず、ぜひリンク先の冒頭だけでも全文読んでみて欲しいです。


ちなみに1号の私見は以前の記事で書いたとおりです。
シルヴィ・ギエムが「本当に一流なら素人が見ても凄いとわかる」と教えてくれた。



冒頭で触れたアイドルの卵が出演する芝居に限らず、小劇場系の芝居や小規模ライブハウスのライブの客席には出演者の知り合いか同業者*6しか来ません。
各出演者には「チケットをX枚売って来る」という販売ノルマがあり、知人に買ってもらったり自腹を切ってタダで配ったりしているのが現状です。

このチケットを売る際に「私が出てるから観に来て」という人が多いのですけど、それでは子供の学芸会と同じですよね。芸に対して対価を得た事にはならない。
少なくとも「きっと面白いし観て損はしないから来て」と誘ってくれる人の方が誠実だと1号は思いますし、その言葉を本当にするべく全力で準備を行う姿勢こそがプロフェッショナルな芸能従事者の姿なのだと思います。
人は「値段分の何か」を感じたら紹介したくなるもの。ももいろクローバーZも、かつての第三舞台も、こうした口コミを通じて観客動員を伸ばしてきたのです。


Dr.エクアドルのコンテンツ観や人となりは、現在でも以下のリンクから感じる事ができます。
読むと彼が1号みたいな分かった風な事を言うオタクや、第三舞台とかキャラメルボックスとかを蛇蝎のごとく嫌っているのだろうなという事が分かると思います。

それでも、1号はDr.エクアドルの創作姿勢を一方的に尊敬しつづけます!


河原者ノススメ―死穢と修羅の記憶
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*1:「安い値段でお腹いっぱいになる外食をしたい」というニーズを持つ層に対しては、マクドナルドは吉野家の代替財として成り立ちます。この時、顧客のニーズが「安くてお腹いっぱいになるなら味にはこだわらない」であればマクドナルドが値上げをすると吉野家の需要が高まります。

*2:動物虐待したり観客に汚物を投げつけたりetc... の手法が必ずしも正しいわけではないのでしょうが、真剣に悩んだ答えである事は尊重すべきと考えます。

*3:かつてホリエモン村上ファンド虚業と非難されたメンタリティと似たようなものですね。政治や農業生産を生業にする人々から見ればサービス業の一員たるマスコミだって十分に虚業なのでしょうけれど、その基準は社会の変化や成熟度によって変化するのでしょう。

*4:現代の経済学ではサービス業の従事者は「付加価値」を生んでいると説明されています。非常にざっくりとした説明ではありますが。

*5:このところ日本社会のセーフティネットを支える生活保護制度に対して風当たりが強まっているとマスコミが書き立てていますけど、「遊んでる(ように見える)奴が金を貰うのは許せん」という感覚は人間の本能に根ざしたものなのかもしれません。

*6:彼らは大抵、過去に自分の出演した公演を観に来てもらった義理があって渋々やって来ていたりします。